先輩インタビュー:石川慶さんから皆へ
臨床工学技士はどのような仕事をするのですか?
主な仕事は病院で使われる医療機器の操作、保守管理です。今、勤務している病院では臨床工学部の体制が手術部門とMEセンター部門に分かれて対応しています。
大阪大学医学部附属病院の大きな特徴として、高度な心臓治療があります。重い心不全にかかっている患者さんに心臓カテーテル検査、補助人工心臓をつける手術を行うのですが、心臓カテーテル検査の実施、心臓手術における人工心肺の操作、補助人工心臓の動作確認など、これら一連の作業に臨床工学技士が関わっています。
他にも手術室で使用される内視鏡装置や電気メス、麻酔器、患者さんの病室で使用される輸液ポンプや人工呼吸器、腎不全の患者さんに使われる人工透析装置など、さまざまな医療機器の技術的なサポートも行っています。
どのようなきっかけでこの職業に就こうと思ったのですか?
私は臨床工学技士になる前に服飾業界の会社に勤めていました。高校時代からアルバイトとして入り、卒業後そのまま入社しました。6年間勤めて店長代理まで任されるようになった25歳の時、家族の紹介で病院に勤める管理栄養士さんと知り合いになります。その人が病院内に臨床工学技士という職業があることを教えてくれました。
以前から医療職に対する憧れはありました。救命救急をテーマにした海外の医療ドラマを見ていたからです。また、服飾業界では人と関わる接客の仕事をしていましたので人と繋がる仕事にやりがいを感じる一方、手に職をつけたいという希望もありました。これを機会に勉強し直したいと考え、会社を辞めて大阪ハイテクノロジー専門学校に入学しました。すでに社会人だったため、昼間働きながら4年間学ぶ夜間部に通いました。
在学中も最初の2年間は淀川キリスト教病院で看護助手の仕事を、後半の2年間は国立循環器病研究センターの人工臓器部で研究補助員として働きました。そこで初めて人工心肺や補助人工心臓を見せていただけたので、たいへんいい勉強になりました。これがきっかけとなって人工臓器に興味を持つことになります。専門学校卒業後、ちょうど求人のあった現在の職場に就職しました。
臨床工学技士を目指す上で必要な資質というものはありますか?
臆病であることだと思います。私は失敗することがとても怖いので、1つずつ確認しながら慎重にものごとを進めるタイプです。心臓手術に使用される人工心肺装置を操作することになった日の前日に「怖いです」と、手術部のベテラン男性看護師の方に言ったことがあります。すると「僕もいまだに怖いと感じるから、その感覚は一生変わらないよ」と言われました。私はその言葉を聞いた時、はっとしました。そして、臆病だからこそ予期しないトラブルをイメージできるのではないか、と思いました。トラブルの予測は失敗を怖れる臆病さから生まれます。臆病であることは重要な資質の1つです。自信があると言われた方が、逆に不安になります。
もう1つは新しいものに対する興味です。医療機器の進化は速く、それについて行くことを常に意識しなければなりません。私も学会などに参加し、新しい情報を得た時には病院内で共有するようにしています。
臨床工学技士のどんな点にやりがい、魅力を感じますか?
医療機器が適切に使用されているかどうか、どのような状態にあるのかなどを、患者さんと機械の両方から見られることではないでしょうか。臨床工学技士としては、まず安全性が保たれた状態で医療機器が適切に動いているかどうかを確認します。しかし、それだけでなく、患者さんの体調の様子なども見ながらその動きが適切かどうかを判断することも必要です。非常に難しい仕事ですが、そういったことにやりがいを感じます。
臨床工学技士の仕事は、ほかの医療職と比べると型にはまっていません。これが魅力だと思います。医療機器の進化とともに機能や操作性を追求することもできますし、患者さんと関わる機会を自ら作り出すことも可能です。今、医師の仕事の一部を看護師や臨床工学技士といった他の医療職に移すという流れがありますが、臨床工学技士はその期待に十分応えられると思っています。また、病院の医療職だけでなく、医療機器メーカーで医療機器の開発に進むという道を選ぶこともできます。
若い学生との接点をどのように思っていますか?
2023年11月、小学生や中高生を対象とした臨床工学技士の仕事体験ツアーが、大阪大学医学部附属病院で開催されました。地元企業や教育機関で構成された地域メディアが主催したもので、60人ほど集まりました。そこで臨床工学技士の仕事を紹介したのですが、医療職を目指す学生が集まったせいか、かなり興味を持って参加していました。
人工呼吸器や補助人工心臓を展示し、臨床工学技士が説明するといったものでしたが、いろいろな質問が出て面白かったですね。高校生からECMOの質問が出た時には感動しました。やはりこうした活動を着実に行うことが、臨床工学技士の存在を知ってもらうために大切なのだと痛感しました。