先輩インタビュー:飯島尚哉さんから皆へ
現在、臨床工学技士としてどのような仕事をされていますか?
私は、インターベンショナル・ラジオロジー(Interventional Radiology:IVR)という、X線(レントゲン)やCT、超音波などでからだの中を見ながら治療する部署で働いています。IVRは血管からカテーテルという細い管を入れて行うもので、外科手術のように身体を切ることが少ないため、患者さんの負担を軽減できます。処置後の傷もほとんど残らない、身体に優しい治療法です。臨床工学技士はIVRにおいて治療を行うための周辺機器の準備、治療時の血管内の解析などを行っています。
IVRでは他に不整脈を治療するための医療機器の準備・操作・解析、そしてトラブル対応も行います。特にペースメーカーのような身体の中に植込む心臓電気医療機器については、手術時から退院時のフォロー、遠隔モニタリングの確認など幅広く患者さんに対応しなければなりません。患者さんに対しては、常にわかりやすく説明することを心がけています。
どのようなきっかけでこの職業に就こうと思ったのですか?
幼い頃からサッカーをやっていたので、一時はサッカー選手に憧れていましたが、いつしか医療関係で働きたいと思うようになりました。生命に関われることを、格好いいと感じたのです。
臨床工学技士を知るきっかけを作ってくれたのは、サッカー部の顧問でもあった高校のキャリア担当の先生でした。先生は医療機器を扱う職種があることを私に教えてくれて、高校と同じ地区にある神戸総合医療専門学校のオープンキャンパスへ行くように勧めてくれました。近くでしたので、それほど意識せずに訪問したところ、実施していたイベントにあっという間に引き込まれました。それは透析装置や電気メスを使った実験でしたが、学生が医療機器を操作することに大きな衝撃を受けました。私は考えるまでもなく、素直にその学校に進学しました。
自分の臨床工学技士としての将来をどのように考えていますか?
私は元々病院の現場で働きたくてこの職を選びました。しかし、病院で働き始めて3年目に、当時技士長だった加藤博史先生からアドバイスを受け、自分のキャリアを考えるようになりました。神戸大学はアクセラレーションプログラムに取り組んでいます。私はその中のグローバル・アントレプレナー育成プログラムにエントリーしました。そして、実際に海外で活躍する起業家を育成するプログラムに参加し、米国のカリフォルニア大学サンディエゴ校に行って1週間ほど研修を受けました。
以前から医療機器開発に興味を持っていました。しかし、実際に医療機器を製造・販売するとなれば、経営の観点なども考えなければなりません。米国の研修では自身の事業プランをブラッシュアップしながら体系的に学ぶことができてたいへん勉強になりました。私はさらに医療機器開発を学ぶために、神戸大学大学院医学研究科の医療創成工学専攻に進学することにしました。今後は病院で働きながら、医療機器の研究を続けるつもりです。
臨床工学技士を目指すためにはどのような資質が必要でしょうか?
コミュニケーション能力ではないでしょうか。IVRの作業は、医師、看護師、放射線技師、臨床工学技士の連携によって行われるので、円滑に行うためにはコミュニケーション能力が必要とされます。麻酔や人工心肺なども同様ですが、IVRには特にそれを感じますね。
医師側もそれを感じていて、看護師さんに向けて勉強会を行っています。
臨床工学技士は病院内においてどのような発言力を持つべきだと思いますか?
医療機器に関しては、しっかりとした発言力を持たなければならないと思います。IVRに関しては機器のセットアップ、画像解析などにおいて医師とディスカッションするので、その必要性を感じます。
また近年、病院ではデジタル技術を活用し、業務の効率化、診療の質向上、患者の安全性向上を目指すという取り組みを行っています。私自身はまだそういう仕事をしていませんが、先輩の臨床工学技士の方々の中には、そうしたことに介入している人が増えています。今後、ITリテラシーを持つ臨床工学技士の需要が高まり、医療の質を向上させるキープレイヤーとしての発言力が求められるでしょう。
臨床工学技士を目指す高校生へメッセージをお願いします。
臨床工学技士は医療機器の操作や管理、メンテナンスを行う専門家という目で見られます。しかし、最近では治療・処置のサポート、医療機器の操作指導・説明など、患者さんと接する機会が増えてきました。また、病院での仕事を経験した後に、医療機器企業に転向する人もいます。医療機器を介していろいろなアプローチができる、それは素晴らしいことだと思います。医療機器+αという考え方をすることによって、無限の可能性が広がる。臨床工学技士となってさまざまなことに挑戦してください。